一般家庭のコンロや給湯器の家庭器具を動かすプロパンガスは、電気と同じエネルギー源ですが、同じエネルギーでも、その使い方、危険性など多くの違いがあります。
年配の夫婦が、ガスは心配だから、オール電化にしようという話を、よく聞きます。しかし、プロパンガスは、熱量が大きい、停電が起きても生活が維持できるなど、大きなメリットがあるのも事実です。
プロパンガスの使用は、本当に安全性に欠けるものがあるのでしょうか?
ガスの使用では、ガス漏れ、一酸化炭素中毒、火災、爆発という危険があることは周知の事実ですし、毎年、事故も起きています。
しかし、事故のほとんどは、正しく使用しなかったこと、正しく保安がされていなかったことなどで、台風や地震といった、特殊な事情から起こる事故はほとんどありません。
このコラムでは、プロパンガスを正しく使うためにどうすればよいか、について紹介します。
1.プロパンガスの基本的な性質とは?
(1)プロパンガスの基本的性質
都市ガスと比較して、一般的にプロパンガスと言われているガスは、LPガス、正式名称は、液化石油ガスです。 家庭に供給されるLPガスは、プロパンガスが8割以上、その他がほとんどブタンガスという成分構成です。経済産業省のHPでは、プロパンガス含有率95%以上のガスが、一般家庭に供給されているそうです。 ブタンガスの含有率は、熱量調整などで供給される場所、事業者によって異なります。
そのため、このコラムでは、LPガスをプロパンガスとして統一します。また、物性についても、分かり易くするため、プロパンの物性を代表として使用します。 (ブタン含有率は5%以下のため、全体の物性に大きく影響しません)
表1では、プロパンガスの代表的な物性と、それが一般消費者にはどう影響するかを紹介します。
表1 プロパンガスの物性
項目 | 物理的値 | 分かり易く言うと | どうなるの? |
ガス組成(分子式) | プロパン: C3H8 (ブタン: C4H10) |
- | - |
ガス比重 | 1.5 | 空気の比重が1.0のため 空気より重い | ガスが漏れると下側の床周辺に溜まります |
発熱量 | 24,000 kcal/m3 (99 MJ) | 高いカロリーがあり、都市ガスの2倍程度の熱量です。 | お湯を沸かすのに、都市ガスの半分の量で済みます |
蒸気圧(20℃) (40℃) | 0.73MPa 1.25MPa |
ボンベには20℃で0.73MPaの圧力をかけ、液体として、消費者に届けられます。 | ボンベ周囲の温度が上がるとボンベ内の圧力が上がり、危険です。温度が上がらないよう日陰で保管するなどの対策が必要です。 |
体積変化 | 液体プロパン体積:気体プロパン体積=1:250 | 加圧された液体のプロパン1リットルを大気に放出すると、250リットルに膨張します。 | 消費者に届けるには、ボンベに圧力を掛けたプロパンガスを、液体として供給します。 |
空気に対する燃焼範囲 | 下限:2.2% 上限:9.6% |
空気に対してプロパンガスが、2.2%~9.6%の間にあるときに、燃焼します。 | 燃焼しても、空気が十分にないと、着火しない、あるいは、不完全燃焼を起こし、毒性の一酸化炭素COが出ます。 |
臭い | 無臭 | ガス漏れがあっても気づかない | ガス漏れに気付くように、着臭剤を添加します。玉ねぎが腐ったような臭いです。 |
(2)風呂やコンロへのプロパンガス供給系統
プロパンガスの系統図のイメージを、図1で紹介します。
家庭にガス給湯器やガスコンロなどのプロパンガス器具が設置されているとします。プロパンガスは、屋外に設置されたガスボンベから供給されます。図1では、供給設備と消費設備に分かれています。
- 供給設備
ガスボンベからガスメーターまでの機器が設置されている範囲で、ガスの販売事業者の責任で管理されます。 - 消費設備
ガスメーターの出口から、屋内の給湯器やコンロまでの配管と器具の範囲で、消費者の責任で管理します。ただし、供給設備、消費設備のガス機器を設置工事を行うことができる人は、法律で資格を取得している人だけです。一般の人が、例えばガスの配管の接続を行うことは、法律で禁じられています。それよりも、知識のない人が工事を行うと、ガス漏れなどの原因となり、災害を起こしかねません。
(3)ガス系統で使われる機器とは?
次に、図1の機器について簡単にご紹介します。
- a.ガスボンベ
プロパンガスが液体で入っています。消費者の使う量に応じた容量のボンベが使用されます。 - b.ガス調整器
ボンベのガス圧力が高いため、コンロなどに供給できる低いガス圧力に調整します。 - c.ガスメーター
マイコンメータとも言われ、ガスの使用量を計量します。 さらに、安全装置として、ガス漏れのような異常を検知すると、ガスの供給を停止して、安全を守ります。 - d.ガス接続管
ガスボンベから給湯器やコンロまで、ガスを供給するための配管です。 配管にも、接続箇所によって使用する配管が異なります。 接続には、配管と配管、配管と器具のように、接続金具が使用されます。 また、ガス配管は、屋内に敷設されますが、屋外では場所によっては地面下に埋設して敷設されます。 - e.ガスコンロ、ガス給湯器など
消費者が使うガス器具です。
2.プロパンガスの危険について
プロパンガスの危険について、その仕組みを理解して対策を取っていれば、危険はありません。
この章では、プロパンガスの危険性についてご紹介します。
(1)一酸化中毒
プロパンガスの燃焼について、化学反応式で見てみましょう。
C3H8+5O2→3CO2+4H2O(+2,221kJ)
C3H8はプロパン、O2は酸素、CO2は二酸化炭素、H2Oは水です。
なお、()内に書いている数値は、化学熱反応式で出てくる数値で、プロパンが燃焼したときに発熱する熱量です。これは、プロパンが44g燃えると、2,221kJの熱が出ます。
化学式から言えることはプロパンが燃えると、二酸化炭素と水になります。プロパンが燃えるには、プロパンの量の5倍の酸素が必要になります。ただし、酸素1に対する空気量は約4.7倍のため、プロパンが燃えるのに必要な空気量は、プロパンの量の24倍必要です。
空気の量が十分にないと、プロパンは完全に燃焼できず、不完全燃焼を起こし、次の重大な問題を起こします。
◎不完全燃焼のガスが、一酸化炭素となる。
一酸化炭素は毒ガスで、少量でも生命の危険を及ぼします。
(2)爆発・火災
①爆発下限界と爆発上限界
プロパンガスが燃焼するために、空気量との関係を、図2で紹介します。
プロパンガスが燃焼するためには、空気が必要です。それも、ある濃度以上の空気がないと、燃焼しません。さらに、空気量が多すぎても燃焼しません。プロパンガスが空気量との比が、2.2%以上で9.6%以下であるとき、プロパンガスは燃焼します。
このときの、2.2%が爆発下限界、9.6%が爆発上限界と言います。
爆発下限界と爆発上限界の値は、プロパンガスの成分の構成によって、多少違いがあります。
②火災・爆発
プロパンガスの漏れなどによる、火災・爆発について、図3で紹介します。
図3の左側の図は、火災のイメージです。ガス配管からガスが漏れ、噴出したガスに、着火源の火が着火したときには、火炎が伝播します。
これが火災です。
一方、図3の右側の図は、爆発のイメージです。
密閉した部屋の中でガスが漏れが起こり、ある範囲に溜まったとします。このガスの中心に着火源の火が着火したときには、着火した火は近くのガスに着火し、こうして火炎が伝播したとします。この火炎は同時に圧力波が加わるため、いわゆる爆発になります。着火から着火までの時間はほとんど瞬時となるため、爆発は一瞬のうちに起こり、部屋の中を粉砕します。
図3の右側の図で、漏れたガスの周囲に空気がなかったときに、どうなるでしょうか?
着火源があっても、空気がないためガスには引火しませんので、何も起こりません。
しかし、ガス漏れが起きる前の部屋は空気で満たされていますので、ガス漏れが起これば、ガスと空気が混じった状態となって、着火源があれば爆発が起こります。
そのため、ガス漏れが起きたときは、部屋の換気を行って、ガスを部屋から出すことが重要です。
3.プロパンガスの規制
プロパンガスは一歩誤れば、大きな災害も起こりかねません。そのようなガスの取り扱いに対し、法律はどのように安全を確保しているのでしょうか。
プロパンガスを規制する法律は、次の法律です。長い名称なので、「液化石油ガス法」と略されます。その内容は概略次のようなものです。
液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律
- プロパンガス(液化石油ガス)による災害の防止
- プロパンガス(液化石油ガス)の取引の適正化
- プロパンガス(液化石油ガス)販売事業の規制
- プロパンガス(液化石油ガス)の保安業務の規制
- プロパンガス(液化石油ガス)設備の工事規制
- プロパンガス(液化石油ガス)器具の許可・登録・検査などの規制
高圧ガス保安法
- 高圧ガスを安全に取り扱うための規制
- 公共の安全を確保するための規制
- 高圧ガスの製造・貯蔵・販売の許可と届出の規制
- 液化石油ガスが、産業用として使われるときの事業規制
- プロパンガスの輸入・移動・破棄などの規制
- プロパンガス販売主任者免状などの規制
- 事故届・立入り検査・緊急措置などの規制
消防法
- 危険物として、300kg以上のプロパンガスの貯蔵時の届け出
「高圧ガス保安法」と「液化石油ガス法」との関係
「液化石油ガス法」は、「高圧ガス保安法」のうち、液化石油ガスで一般消費者の保安に関する規制を抜き出した法律です。 したがって、プロパンガスの保安に関して共通部は、「高圧ガス保安法」に委ねられています。
図4では、高圧ガス保安法と液化石油ガス法の関係を図で紹介します。
図4では、赤い矢印の範囲が、「高圧ガス保安法」、緑の矢印の範囲が、「液化石油ガス法」の範囲です。
なお、液化石油ガス法の範囲であっても、ガスボンベや一般家庭で使うガス配管のような機器の製造や技術基準は、「高圧ガス保安法」の範疇です。
図4から、プロパンガスが消費者のところで使われるまでのどの段階でも、使用について法律で規制され、安全が確保されていると言えます。
4.プロパンガスは安全
2章では、プロパンガスによる災害、一酸化炭素中毒、火災・爆発について紹介しました。これをご覧になると、プロパンガスは危険だから使わない方が良いのでは、と考える方もおられることでしょう。
しかし、大丈夫です。2章で紹介した事故となる状況を作らないように、プロパンガスを正しく使えば、まったく問題がありません。
むしろ、熱量が大きい、自然災害時に頼りになるなど良い面も多く、便利で安心できるエネルギー源です。以下では、プロパンガスの危険を起こさせないための対応について、紹介します。
(1)ガス漏れへの対応
図1のプロパンガスの系統図で、ボンベから家庭内のガス器具までの系統をご紹介しました。これらのガス器具はすべて、接続機器で配管などと接続されています。
そのため、次のような要因でガス漏れが起こる可能性があります。
- 接続部のゆるみによるガス漏れ
- 配管などの劣化から、配管欠損が起こることによるガス漏れ
ガス漏れに対し、次のような対応が必要です。
- ガス検知器の設置
ガス漏れに対しては、ガス警報器を設置することで、ガス漏れが検知できます。 プロパンガスのガス警報器は、床に近い場所に設置します。その理由は、プロパンガスの比重が、空気より重く、下方向に溜まりやすいためです。 なお、都市ガスの場合は、逆に空気より軽いため、天井方向に設置します。
- ガス漏れの臭い
プロパンガス自体は無臭ですが、着臭剤が添加されているため、玉ねぎが腐った臭いがします。
- ガス漏れを検知したとき
ガス漏れがあると分かったときは、直ちに部屋を開放し、換気することが重要です。
- 保安検査員の検査
販売事業者は定期的に設備の点検を行うことになっています。万一、ガス漏れがあれば、大事に至る前に見つけて対処することができます。
(2)火災・爆発に対応
火災・爆発を起こさないために必要なことは、「ガス漏れを起こさないこと」です。そのために、(1)で紹介したことを、まずしっかり実行することです。
その他に、次のような火災・爆発につながる要因を取り除いておくことも、重要です。
- ガス器具の整理
コンロのそばにキッチンタオルを置くなど、ガス器具の周囲には燃えやすいものを置くことがないように気を付けます。
そうすることで、万一、ガス器具の火炎が伸びても、火災の心配はありません。 - 電化製品の整備
電化製品で劣化してくると火花を出すようなことがあります。
万一、ガス漏れが発生すると、火災・爆発の要因になりかねますので、普段、チェックしておきましょう。 - 安全性の高いガス器具の採用
ガスコンロは煮こぼれや点火ミスで火が消えたとき、センサーがそれを感知して、ガスの供給を停止します。
新しいタイプはすべてこの機能がありますが、古い器具ではセンサーが付いていないものがあります。
買い替えの予算もあることでしょうが、できるだけ安全性の高い器具に買い替えることを検討してはどうでしょうか。
(3)一酸化炭素中毒への対応
プロパンガスが不完全燃焼を起こすと、一酸化炭素が発生します。それを起こさせないためには、十分な空気が必要です。そのためには、次のことを行いましょう。
- 部屋の換気を良くして、常にフレッシュな空気を入れるように心掛けます。
- ガス器具の定期的な手入れ
ガスコンロに目詰まりや汚れがあると、不完全燃焼の可能性が出てきます。そのため定期的な手入れ・清掃が必要です。
- プロパンガス用のガス機器の使用
誤って都市ガス用の器具をプロパンガスにつないで使用すると、不完全燃焼の原因となります。
- 排気筒・煙突のチェック
台風などの後で、煙突や煙突の給気口がふさがっていると、排気が部屋に逆流することがあり、一酸化炭素が室内に入る可能性があります。
(4)ガス器具
- ガス器具は正しく取り扱うことが大事です。取り扱いが誤っていると、ガス漏れの原因となり、火災の恐れもあります。
- ガス器具には取扱説明書が付属されますし、ガス事業者が器具を設置したときに、事業者から取り扱いの説明と、注意事項が説明されます。
- これらの事項を守ることで、ガス器具の誤った使い方による事故は、防止することができます。
まとめ
世界規模で低炭素社会の実現に向けたさまざまな取り組みがなされており、省エネルギーの推進を始め、化石エネルギーの高度有効利用や非化石エネルギーの導入拡大等の様々な施策が展開されています。
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